消費者がネットで購入し、注文商品を店舗や宅配ボックスなどの専用ピックアップポイントで受け取るクリック&コレクト(Click&Collect)が、アメリカで伸びてきています。
アメリカで2016年にクリック&コレクトを利用したのは、ネット買い物客の27%であったと調査会社L2が発表しました。この27%のうち、初めてクリック&コレクトを利用したのはおよそ半数に上る51%であったということで、このサービスが急速に利用されていることが伺えます。
クリック&コレクトの消費者にとってのメリット
自宅で商品を受け取ることに比べると、消費者にとっては、
- 配送料負担が無い
- 荷物の受け取りのために自宅待機する必要が無い=好きな時間に荷物を受け取りに行くことができる
というメリットがあります。
最近は送料無料サービスを実施しているサイトが多いですが、事業者が指定する場所に商品を受け取りに行けば基本的に送料は無料になります。
また単身世帯や共働き世帯では配送時間を夜間に指定しても受け取れないということも多いため、例えば仕事のランチタイムの間や、帰り道の道すがらに商品を受け取る方がよいということがあります。
クリック&コレクトの事業者にとってのメリット
事業者にとってのメリットを、物流コスト面と集客面の二つの側面から考えました。
物流コスト面
消費者がクリック&コレクトを利用してくれると、事業者は店舗へ配送する既存の物流網の活用や、宅配ボックスなどに荷物をまとめて納品することができるので、消費者の自宅まで届ける場合に比べて配送コストを削減できます。
個人宅への配送でヤマトや佐川に代表される宅配事業者を小ロットで使うと、どうしてもコストがかさみます。しかし例えば店舗へは通常業務として倉庫から多くの製品を納品しているはずであり、そこにクリック&コレクトの注文品を一つ積み込むことに、追加コストはほとんど掛からないためです。
配送先が店舗であれば、仮に消費者が注文をキャンセルしたとしても店舗に届けた商品をそのままその店舗の通常在庫として扱うという判断もできるはずです。これには高度なシステム連携が必要になりますが、物理的な商品はすでにその店舗に届いているので、その商品を一度倉庫に戻し、将来のいつかの時点の商品補充のタイミングで再度配送するというよりも効率的です。
集客面
ネット通販の現代においてリアル店舗のショールーム化(消費者が実店舗に足を運ぶもののそこで買い物はせず、価格比較サイトなどを検討して結局他社で購買を行なう)が懸念されていますが、懸念だけではなく実際にこのような行動を取る消費者は少なからず存在します。
しかしそれでも、運営コストが掛かっている実店舗に一人でも多くの消費者を送客することは事業者にとってメリットがあります。
ウェブで注文した消費者が店舗を訪れてくれれば、店舗でついで買いをして客単価が上がる可能性がありますし(実際にオムニセブンのオムニチャネル事例では、セブンイレブンで商品を受け取る客の6割がついで買いをし、客単価が上がっているという事例があります)、また細やかな接客をできる店舗であれば、その消費者がその店舗の顧客となってくれることも考えられます。
消費者が自宅配送を選んでいたら生まれなかったはずの店舗との接点を、クリック&コレクトが生み出したということになります。オムニチャネル化を進める事業者にとって、ウェブから店舗へ消費者を送客する手段の一つであるクリック&コレクトは非常に重要な意味を持っています。
例えばビックカメラは「パソコン・スマホで①商品を探して②在庫のある近くの店舗を選んで③ご来店日を決めるだけ!」というように、ネットで注文して店舗で受け取ることを促進するポスターを、実店舗の店内に掲示してサービスを案内しています。
クリック&コレクトの身近な利用シーン
例えば宅配ピザをネット注文した際には、宅配してもらうか自分で取りに行くかを選ぶことができます。ここで宅配してもらうと従来のサービスですが、自分で取りに行くという選択をすると、それがクリック&コレクトということになります。
アメリカではスタバがモバイルオーダー&ペイ(Mobile Order & Pay)というサービスを提供しているのですが、それはスタバに到着する前にスマホ上のアプリで飲みたいコーヒーを「何分後にピックアップに行く」という情報と共に決定し決済を完了させる、というものです。
スマホでコーヒーを注文してスタバの実店舗に受け取りに行くという、これもクリック&コレクトの事例です。
スタバではこのフライヤーのようにモバイルオーダー&ペイを促進しようとしており、
その狙いはこちらのエントリでも書いております。
クリック&コレクトのこれから
日本では物流倉庫から個人宅まで商品が迅速に届く物流網が非常に高いレベルで整備されており、細かい日時・時間帯指定や再配達が無料ということも合わせて、社会的なインフラとして使われていました。配送途中の紛失や破損なども少なく、安心して使えます。
しかし昨今のヤマト運輸の問題など既存の物流網への負担が大きくなっていることから、「消費者がウェブ注文をある地点まで商品を取りにきてくれる=事業者がラストワンマイルまで届けなくてよい」というクリック&コレクトは、日本でもこれからより広く使われていくことになります。
一方そのためにはピックアップポイントの充実が欠かせず、事業者の実店舗やコンビニだけではなく、主要駅のロッカーの拡充や大規模マンションにおける集合的な宅配ボックスの設置などが必要になってきます。
アメリカではピックアップポイントにドライブスルーが多く利用されているというのも、車社会であるアメリカの特徴です。
6月16日にアマゾンがホールフーズを買収したというニュースがありましたが、こちらのエントリに書いたように、アマゾンの狙いは全米のよい立地にある440店舗を倉庫とみなし、消費者の近くにあるこれらの店舗に商品を取りに来てもらうことを視野に入れているはずです。
この440店舗の物流網を手に入れることで、アマゾンは自社が行なっているアマゾンフレッシュの配送網を強化することができますし、Amazon Fresh Pickup(アマゾンフレッシュピックアップ、生鮮品を店頭で受け取るサービス)という、シアトルの2店舗で実験的に行なっているクリックアンドコレクトサービス(ネットで注文して店頭で受け取るサービス)を全米に拡大することができます。
アマゾンのホールフーズ買収の意味を無人レジ・アマゾンフレッシュピックアップと考える
アマゾンといえど消費者の個人宅まで届けるのはコストが大きく掛かるため、できるだけ消費者に最寄の店舗に足を運んでもらいたく、そのためのインセンティブも提供していくことになりと考えられます。
アメリカではクリック&コレクトを利用する消費者は2016年にまだ27%ですが、配送コストを少しでも削減し実店舗に足を運んでもらいたい事業者側の思惑と共に、日本と同様にこれからも利用が進んでいくことになります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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