EC(ネット通販)市場規模は成長率に高低はあるものの毎年順調に成長してきており、これからも成長が見込まれていますが、そのネット通販を支えている物流に大きな問題提起がなされたのが今年2017年の前半の出来事でした。
この動きを受けて、ゾゾタウンやロハコなど当日配送を中止する企業がある一方、アマゾンやヨドバシなどは引き続き当日配送を続けていく見込みです。
ちなみに紛らわしいですが、
- 当日配送(当日配達・即日配達)は「注文した当日に消費者に商品が届く」サービス
- 当日発送(即日発送)は「注文した日に企業が発送する(が消費者に当日に届くとは限らない)」サービス
を意味しており、消費者としては当日中に商品が届く当日配送の方がより好ましいということになります。
宅配便の取り扱い個数や、今後のヤマトの対応と共に当日配送を中止する企業・継続する企業を調べましたのでまとめます。
日本全体で増加する宅配便の取り扱い個数
ネット通販の拡大によって宅配便の取り扱い個数は増加しており、国土交通省が3月3日に発表した宅配便取扱個数は
- 2016年:38億6896万個(2015年比+6.4%)
- 2015年:37億4493万個(2014年比+3.6%)
というように、2014年比+3.6%であった2015年からさらに増加しています。
業界最大手のヤマト運輸の取り扱い個数も同様に急増しており、4月6日の発表によると2016年には18億6756万個(2015年比+7.9%)を扱ったということです。
ヤマトはこの18億6756万個の全量を扱えるわけではなく、ヤマト自身が扱えるのは15億個程度だと言われています。残りの3億個以上は、ヤマトが協力会社に依頼している状態です。
ヤマトを中心に、配送を現場で担当する宅急便ドライバー(その中には、もちろんヤマトが委託している協力会社のドライバーも含まれています)の過酷な長時間労働が明らかになるに連れ、その過重労働と待遇に批判の声が高まりました。
それを受けてヤマトは、
- 最大の取引先であるアマゾンの当日配送から撤退
- 取り扱い個数を削減(協力会社に依頼している分の3億個をターゲット?)
- 配送時間帯を変更
- 配送単価を上げる
という打ち手を取っています。
ヤマトの配送時間帯は次のように変更になります。
ヤマトが2017年6月19日から実施する新しい配達の時間帯枠
ヤマトのこちらのページによると、
- 12時から14時の枠を廃止(社員の昼休憩取得のため)
- 20時から21時の枠を、19時から21時の枠に変更
というようになります。
出典:ヤマトのお知らせページより
12時から14時の枠はあまり使われていなかった枠ということなので消費者への影響は小さいですが、20時から21時の枠は今までとてもよく使われていた枠ということです。
自分がネット通販で買い物をして商品を届けてもらう際にも、仕事後に在宅しているであろうこの遅い時間帯を指定することが多かったです。
一方ヤマトからすると、この枠によって大きな負荷が現場に掛かっていたため、今回の変更にて20時から21時の枠を廃止したという事になります。
ヤマトからの依頼を受けて当日配送(即日配達)を中止する企業が出てくる一方、今のところ当日配送を継続する企業もあり、各社の対応が分かれています。
まずは当日配送を中止する企業を見てみます。
当日配送を中止する企業
当日配送を実施していた企業は、こちらの記事でも触れているように今までもそんなに多くはありませんでした。
アマゾンのPrime Now(プライム・ナウ)が有名ですが、そのアマゾンにしても当日お急ぎ便によって当日配達が可能なのは一部の商品・一部の地域に限られています(ちなみにアマゾンは今のところ当日お急ぎ便での当日配送を続ける予定です)。
当日配達を中止する企業として、ゾゾタウンとロハコがあります。
スタートトゥデイが運営するZOZOTOWN(ゾゾタウン)
ゾゾタウンは2017年6月12日から当日配送を取りやめます。
ゾゾタウンでは、
- 関東エリア(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)
- 関西エリア(大阪府、京都府、兵庫県、奈良県、和歌山県、滋賀県)
にて当日配送サービスを行っていました(それぞれ、離島や一部地域を除く)。
ユーザーは、
- 月額500円でゾゾプラチナムという有料会員になる
- 注文1件につき350円の手数料を支払う
このどちらかの方法により、午前9時までの注文分がその日に届くという当日配送サービスを受けることができていました。
ゾゾタウンはこの当日配送サービスを中止し、最短で当日発送・翌日配達に切り替えます。
地域によって異なりますが、
■関東エリア
- 従来:午前9時までの注文を当日配送(最短で当日着)
- 今後:午後8時までの注文を翌日配送(最短で翌日着)
■関西エリア
- 従来:午前9時までの注文を当日配送(最短で当日着)
- 今後:午後6時までの注文を翌日配送(最短で翌日着)
というように切り替わることになります。
関東では午後8時までの注文で翌日届くのに対し、関西では翌日届くためには午後6時までに注文しなければならないというように、物流拠点のキャパシティやヤマトの集配センターまでの距離などが要因なのでしょうが、カットオフタイムがエリアによって異なることになります。
アスクルが運営するLOHACO(ロハコ)
ロハコは2017年5月16日から当日配送を取りやめていることが配送関連情報のページから分かります。
ロハコは関東や関西の都府県で、午前10時までに注文すると当日中に商品が届く即日配送サービスを行ってきました。
これが2017年5月16日以降、午後6時までの注文が翌日に届くのが最短となる翌日配送サービスに切り替わっています。
一方ロハコは自社でもHappy On Timeという物流を持っており、下記にある東京と大阪の一部の区
- 東京都10区(江東区・中央区・千代田区・港区・世田谷区・渋谷区・品川区・目黒区・大田区・新宿区)
- 大阪6区(北区・此花区・福島区・西区・中央区・旭区)
では、午前10時までの注文で引き続き当日配送が可能です。
1回の注文が1,900円(税込み)以上の場合には送料が無料となり、また3,000円(税込み)以上のお買い物(もしくは別途350円の支払い)で、1時間単位で配送時間を指定することが可能になります。
次に、当日配送を続ける企業を見ていきます。
当日配送を継続する企業
ゾゾタウンやロハコのように、当日配送を中止する企業がある一方で、今のところはということですが当日配送を継続する企業もあります。
継続できるのは「自社で物流網を持っている」企業になります。アマゾン、ヨドバシ、オムニセブン、カクヤスを見ていきます。
アマゾンの当日お急ぎ便
アマゾンの当日配送は、アマゾンが自社倉庫から発送可能な商品のうち一部の地域において選択可能な「当日お急ぎ便」および、プライム会員専用の対象エリアでの注文が1時間以内(2時間以内であれば無料)で届く「Prime Now(プライム・ナウ)」の2種類があります。ここでは当日お急ぎ便のケースを見ていきます。
当日お急ぎ便は、アマゾンでの注文に514円(税込み)のオプションをつけることによって、注文の当日に商品が届くというサービスです。(何時までの注文が当日に届くかは、配送地域や商品の物理的な場所(倉庫)によるようで、一律で決まっているわけではありません)
ただし、年会費3,900円(税込み)のアマゾンプライム会員であれば、この当日お急ぎ便は無料で何度でも利用可能となっています。
日本のアマゾンのプライム会員数が200万人~300万人程度と推定されるので(下記の記事で推定しています)、多くのユーザーが当日お急ぎ便を使っていることが考えられます。
ヤマトがアマゾンの当日配送からの全面撤退を目指しているため、アマゾンは一部の地域で当日配送を日本郵便に振り分け始めています。
しかし日本郵便の配送能力はヤマト運輸の半分以下、3割程度とされているので、アマゾンが今後もこの当日配送のサービスを維持していくためには、プライム・ナウで活用している自社の物流網をより充実させることや、日本郵便以外の配送会社と協業するなど、他の打ち手が必要になってきます。
ドローンでの配達もそうですが、何かしらの新しい(しかも革命的な)仕組みを導入してきそうです。
ヨドバシドットコムのヨドバシエクストリーム
ヨドバシは2016年の9月より、「ヨドバシエクストリーム」という即日配達のサービスを開始しています。
対象となっているのは東京23区全域で、ヨドバシが自社の13箇所の倉庫(配達車両は300台)から配送する仕組みとなっており、ヨドバシドットコムサイトに掲載されている約456万品のうち、10%にあたる約43万品が対象となっています(この数字は2016年のプレスリリース当時のものなので、現在はもっと広がっている可能性があります)。
一品からの注文で送料無料で利用でき、また最短で2時間30分で届けてくれます。
このエクストリーム便は自社の配達員が届ける仕組みになっているため、ヤマト運輸のサービス状況に関わらずこのサービスは継続される見込みです。
オムニセブンのコンビニ受取(お急ぎ店舗受取りサービス)
オムニセブンは、サイト上の一部の商品に対し、午前7時までの注文で注文当日の午後7時以降にセブンイレブンで受け取れるお急ぎ店舗受取りサービスを実施しています。
利用料は税込324円となってます。
利用できるセブンイレブンは1都6県(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、茨城県、栃木県、群馬県)となっており、こちらも自社の物流網を利用した当日受け取りサービスです。
カットオフタイムが午前7時までとかなり早いことがデメリットではありますが、自宅近くのセブンイレブンで商品を受け取ることができるため再配達のロスがオムニセブンにも消費者にも発生しないですし、セブンイレブンとしては商品を受け取りに来たユーザーがそこでさらに買い物をしてくれるという相乗効果も見込めます。
こちらもヤマト運輸を利用しない自社サービスのため、今後も継続される見込みです。
カクヤス
カクヤスは扱っている飲料(酒類を中心に8000点)に限りますが、21時30分までの注文で当日無料配送という非常に優れたサービスを提供しています。
対象となるのはカクヤス配達エリア内での、東京都、大阪府、神奈川県の一部地域ですが、ビール1本から送料無料となっています。
街中を自転車で走るカクヤスの配達を見ることがありますが、こちらも自社物流を使い、最寄の店舗から届けるという酒屋の仕組みを応用しているサービスになります。
消費者の最寄店舗からの配達(すなわち最寄店舗が物流拠点を兼ねる)となるため、選べる商品数に制限はありますが、その代わり21時30分というとても遅い時間まで当日配送を可能にしています。
こちらもヤマト運輸を利用しない自社サービスのため、今後も継続される見込みです。
最後に
加熱していく一方だと思われていた「消費者の手により早く商品を届ける」という配達競争ですが、ヤマトの発表により当日配送を取りやめるゾゾタウンやロハコなどの企業が出てきて少し落ち着きそうな一方、アマゾン・ヨドバシ・オムニセブン・カクヤスなどの「自社の物流網を利用できる企業」はそれを活かし、今後もサービスを継続していくことが見込まれます。
自社で物流網を構築するのは大変なことなので、展開地域や対応商品や在庫の持ち方などのオペレーション面で、これらの企業に追いつこうとするのは大変なことになります。
特にアマゾンは、他社のサービスレベルが相対的に下がる中、現在の自社のアドバンテージをさらに活かした戦略を打ち出してくると思いますので、これからも見ていきたいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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