トランプ大統領は、ツイッターでの発言からや、テレビや新聞などのマスコミから断片的に目にする情報からはまったく想像できない姿を、ビジネス界のリーダーたちとの会合で見せているという記事がありました。
率直に言って意外でした。
私はトランプ大統領の著作を読んだことがなく、また今までの経歴も全然知らないのですが、ツイッターの発言を見ていても、マスコミからの情報をとらえても、独善的とまで言ってしまってもいい人物ではないかと思っていたからです。
確かに不動産王として成功する(そして4回の自己破産という大きな失敗を乗り越える)ためには卓越したビジネスセンスや交渉術が必要なはずですが、それでも選挙期間中の生の発言を聞くと、どうしてもそう考えてしまいます。
ところが、ビジネスリーダーたちとの会合では、
- 参加者を非常に丁寧にもてなす(誕生日なども記憶している)
- 参加者全員の意見をきちんと聞く(取締役会のようなスタイル)
- 問題が個別企業ではなく古い規制に起因するとし、各企業にヒアリングする
という姿勢を取っているということです。
トランプ政権が振りまく話題
米国第一主義(アメリカファースト)を掲げて1月20日に発足したトランプ政権について、まだ2ヶ月も経っていませんが、本当にいろいろなことが話題になっています。
- 政権と中国やロシアとの関係
- メキシコとの国境に建設する壁
- 発足直後にもかかわらず政権内外の人事・解任騒動
- オバマケアへの代替案
- 時に身内の共和党からも批判される言動
- そしてシュワルツェネッガー氏への攻撃まで。
その中でも最近(2017年3月14日)大きく話題になっているのは、
- 入国禁止に関する大統領令(とその修正版)
- 大統領選挙期間中に、バラク・オバマ前大統領に盗聴されたというツイート
という2点だと思います。
2点目についてはさらに、
「これはウォーターゲート事件に匹敵するような大スキャンダルだ」
というツイートもしており、ニューズウィークの記事(「オバマが盗聴」というトランプのオルタナ・ファクトに振り回されるアメリカ政治) に詳しいです。
アメリカ大統領自身がオルタナ・ファクト(もしくはフェイクニュース、嘘ニュース)を作り出すというすごい状況になっていますが、これはここではひとまず置いておきます。
これらから考えられるトランプ大統領像
ツイッターでは、ショッキングな内容を強い言葉で断定的に話していますし(バラク・オバマ前大統領に盗聴されていた、などはその最たる例といえます)、多くのメディアに攻撃的な姿勢を取っていることもあり、マスコミとの関係も友好的とはとても言えない状態です。
メディアもトランプ大統領のことを独善的で、言動に予想がつかない、破天荒な人物という描き方をしている面もありますし、そういう一面ももちろんあります。
しかしそこから想像すると、ビジネスリーダーとの会合においても、一方的に強いメッセージを命令口調で発するだけの人物が思い浮かびます。
ところが、事実はまったく異なるということがトランプ大統領と会合を持ったビジネスリーダーや参加者のコメントから浮かび上がってきました。英語の記事ですがこちらになります。
ビジネス界のリーダーたちとの会合
トランプ大統領は1月20日に就任後、自動車、航空、小売、医療保険、製薬といった各ビジネス界のリーダーたちと、少なくとも9回の会合の場を持っています。
製薬業界との会合
1月31日には製薬業界のトップ6企業(ジョンソン・エンド・ジョンソン、ノバルティス、メルク、イーライリリー、セルジーン、アムジェン)のCEO達と会合があったということですが、その場に参加したCEO達はそれに先立つトランプ氏のツイッターでの発言
「製薬会社は医薬品の価格をあまりにも高くしすぎている」
もあり、戦々恐々としていたはずです。
ところが、彼らを迎えたトランプ大統領は驚くほど愛想よく対応し、参加者は
“There is no question that it was better than it could have been or we thought it could be"
「想像を超えた、これ以上は望めないようなよい会合だった」
というようにコメントしています。
トランプ大統領は製薬業界への攻撃を繰り返すことはせず、コスト増をもたらしている時代遅れの規制(オバマ前政権もしくはそれ以前に制定された)に焦点を当てて話をしたということです。
これは理知的で建設的な姿勢と言えますし、オバマ前政権もしくはそれ以前に制定された規制の変更・撤廃を、トランプ政権が重要な優先事項の1つととらえていることを改めて示しています。
会合の場でのトランプ大統領が見せる一面
妥協せず要求の厳しいツイッターでの発言と異なり、トランプ大統領はビジネスリーダーたちと個人的に会う際には非常に魅力的な一面を見せています。
個別の企業を攻撃するのではなく、時代遅れの規制に焦点を当てて何が新規雇用創出の妨げになっているかを参加者全員から聞き取る姿勢を示しており、また自身も実業家であるということもあり、会合を取締役会のように運営しているということです。
会合に参加していたホワイトハウスの高官は
"Trump’s approach to these meetings is “one of listening and not lecturing”
「トランプ大統領のアプローチは、各ビジネスリーダーに”教える”のではなく”教えてもらう”という姿勢である」
と述べています。
このプライベートな一面により、ビジネスリーダーたちはトランプ大統領のツイッター上の発言によって株価が下がったとしても、この共和党選出の大統領の下でのビジネスに確信を得ることができています。
メディア・国民に見せる顔からの豹変
参加者は、
"He said one thing for the cameras and the door shuts and then it's like kumbaya"
「トランプ大統領はカメラに(強い)一言を言い放つが、扉が閉まると非常に暖かい雰囲気に変わる」
というように述べており、メディア、すなわち国民に向けて見せる顔と、ビジネスリーダーたちに見せる顔がまったく異なっていることがここからも分かります。
トランプ大統領は物静かで上品な”貴族”だった
トランプ大統領がどういう人物で、どういう経緯をもって今のようなスタイルになっていったか、そして今のスタイルは本心なのかどうか、興味が沸いて調べてみたところ、とても興味深い記事(貴族だったトランプがアジテーターに転向した理由)を見つけました。
要約すると、
- トランプ氏はもともと物静かな”貴族”だった
- 彼を有名にしたテレビシリーズ「アプレンティス」での決めゼリフ「You're fired(君はクビだ)!」も、参加者に冷徹に上品に伝えていた
- 2000年の大統領予備選に出馬した際(共和党でも民主党でもない、改革党から)、移民排斥を訴えていたブキャナン氏が改革党の中で勝ったのを見た
- プロレス団体WWEの会長マクマホン氏との関わり(およびブキャナン氏の勝利)から、白人労働者層(サイレント・マジョリティ)の鬱屈したパワーに触れ、この層を刺激すれば勝てると踏んだ
ということです。
この記事からは、トランプ大統領の現在の過激で独善的なスタイルは、サイレント・マジョリティをターゲットにした「コントロールされた」形であると見ることもできます。
事実、ビジネスリーダーたちとの会合では、メディアやツイッターを通して国民に対して発している独善的なスタイルは鳴りを潜めています。
最後に
どこまでが計算されたスタイルで、どこからが”本音”なのか、トランプ大統領の言動はとても分かりにくいです(もちろんそれを悟られないことが外交交渉上有利であることは言うまでもないですが)。
ツイッターの発言は「さすがに言いすぎだろう」というものも多くありますし、メディアへの批判も激しすぎると感じるときもあります。
一方この記事で分かったように、ビジネスリーダーとの会合ではまったく違う側面を見せていますし、今回は触れなかったですが各国首脳との会談でも同じように丁寧な姿勢を見せているのかもしれません。安倍首相も歓待されていましたが、他の首脳も同様の扱いを受けていたのでしょうか。
元記事はアメリカでもあまりシェアされていないようでしたが、トランプ大統領の意外な一面や姿勢を知るためにも、幅広く情報を追うことの大切さを感じました。
トランプ大統領の就任演説を聴いて感じた強烈なアメリカ第一主義・アメリカファーストに関する記事も書いておりますので、よろしければお読みください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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