(読了5分)1月11日にニューヨークで開かれたトランプ次期米大統領による記者会見にて、今まで主にTwitterによる一方的な発信が目立っていたトランプ氏に対し、メディアが公開の場所で質問をする機会がありました。
記者会見の主な内容
トランプ氏が従来述べていた考え方と大きく変わるところは無く、変わった点といえば「大統領選挙に関するハッキングにロシアが関与したと考える」と述べた点ぐらいだと思います。
その他は
- 米国内に雇用を創出する(自動車工場などで、確かに早くも成果が出ていますが)
- 貿易不均衡を是正する(多国間ではなく2国間協定を目指す考え)
- オバマケアを廃止する
- メキシコとの国境の間に壁を作る(そしてメキシコ政府がその代金を払う)
などが主要点として上がっており、NHKが詳しく報じています。
いろいろ感想はあるのですがこのエントリの主眼ではないので、ただ1点だけ「米国内に雇用を創出する」として自動車などの製造工場を米国内に作るように促していますが、当たり前ながら各企業も米国で雇用を創出したくないから他国で作っているわけではありません。
純粋に効率・利益を最大化し、かつリスク(為替や原材料調達など)を最小化するためにいろいろな国で作っているわけです。米国で作られた高い自動車を誰が買うのかという問題がありますが、それはそれとして。
CNN記者からの質問を拒否
私がそれよりも気になったのは、まず冒頭からメディアの姿勢に対して疑問を投げかけていた点と(大統領選挙後に記者会見を開いてこなかったのは、私を公平に扱わない報道機関があったからだ)、そしてCNN記者からの質問を拒んだ点です。
そのやり取りを抜粋した動画がCNNサイトに上がっているのですが
そこでトランプ氏は
CNNはひどい、CNNは嘘ニュースだ
"Your organization is terrible, CNN is fake news"
と強い口調でCNNを非難しています。
世界一の民主主義の国(ですよねきっと)の大統領になる人物が、メディアの中で筆頭とも目されるCNNに対して「Your organization is terrible, CNN is fake news」と言い切るというのはすごいことだと思います。
質問拒否することにデメリットはあるか
ただ、質問を拒否することによる、トランプ氏へのデメリットはあるのでしょうか。
従来は、質問拒否をすることは、何か答えたくない・後ろめたい事柄があるのではないかと思われ、質問拒否をした人物にプラスになることはなかったと言っていいと思います。
基本的に、記者会見に臨む人物はあらゆる質問に答えるべき(答えないにしても、「答えない・答えられない」という答えをするべき)という考え方があります。
しかしトランプ氏にとっては、答えないことによるデメリットが実はあまりないかもしれません。
大衆に直接意見を届ける術(Twitter)を持ち、かつ伝統的なメディアに懐疑的な姿勢を持っている大衆も多くいるからです。
トランプ氏が大統領就任後にどういうスタンスを取っていくのかは分かりませんが、
- 伝統的なメディアへの対応がこのようであっても支持率に影響は無い
- むしろ伝統的なメディアを蔑ろにするような姿勢を取った方が支持率が上がる
というようなラーニングを得てしまうと、これからも記者会見での質問の選別や、引き続いてのTwitterなどによる一方的な発信に繋がる可能性があります。
伝統的なメディアの役割
情報発信という点において、過去と現在を比較するならばその違いは下記のようになります。
■過去:
公人といえどその意見を広く大衆に伝えるためにはどのような形であれメディアを利用する必要があった
■現在:
途中にメディアを介在せず大衆と直接繋がることができるため、必ずしもメディアを必要としない
上述のように、トランプ氏はその発言を好きなように大衆に届ける手段(Twitter)を持っています。
でも書きましたが(新聞に限らず、伝統的なメディアと言い直してもいいかもしれません)、伝統的なメディアの影響力が低下してきているのは間違いありません。
上記のエントリを読んでいただくと、いかに多くのメディア(ここでは新聞ですが)がヒラリー・クリントン支持もしくはドナルド・トランプ不支持であり、ドナルド・トランプ支持がいかに少数であったかが一目瞭然であり、
アメリカ大統領選挙ではトップ100の新聞社のうち実に57社がヒラリー・クリントン支持を打ち出した一方、ドナルド・トランプ支持はわずか2社(そしてトランプ不支持が3社)
部数の合計で見るとヒラリー支持1,310万部 + トランプ不支持324万部 vs トランプ支持32万部と、圧倒的な開き
トランプ氏の「私を公平に扱わない報道機関があったからだ」という発言を一方的に非難することができないのは確かです。
しかし当然ながら一方で、伝統的なメディアには権力のチェックという大切な役割があり、それを発揮するためには緻密な下準備を元にその対象者に厳しい質問を投げかけ、そこから出てくる回答を精査する必要があります。
権力者から伝統的なメディア(およびそのメディアが起こす問題提起)を通さない形での情報発信が進んでいくと、常に後追いになってしまいますし、メディアが聞きたい質問を投げかけることができず、このチェック機能を有効に働かせることが難しくなります。
最後に
いろいろな点で従来の大統領とは異なる大統領が誕生することになりそうですが、経済や外交の政策はもちろん、メディアの意義といった点でも興味深いです。
これからどういう4年間、もしくは8年間になるのか楽しみですね。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今後もいろいろなエントリを書いていきますので、ぜひ読者登録をお願いします。