(読了7分)アメリカでは2015年3月31日からサービスが開始されていた「Amazon Dash Button」ですが、ついに12月5日に日本でも開始されました。
このダッシュボタンがもたらすものをユーザー、メーカー、そしてアマゾンの立場で考えました。
- Amazon Dash Button(アマゾン ダッシュ ボタン)とは
- Amazon Dash Buttonの使い方
- ユーザーにとってのメリット
- メーカーにとってのメリット
- アマゾンにとってのメリット
- 最後に
Amazon Dash Button(アマゾン ダッシュ ボタン)とは
アマゾンが12/5に「Amazon Dash Button」を日本でも発売開始しました。
ダッシュボタンは、ボタンを押すだけで商品を買うことができる小型(手のひらサイズで、縦3センチ、横横6センチ)の端末です。
日用品などが無くなりそうな時に、ウェブサイトやアプリを立ち上げてアマゾンを開かなくても、このボタンを押せば注文を完了できる、という端末です。
この端末を利用できるのはアマゾンプライム会員(年額3,900円)のみとなっており、また現在対象となっているのは40ブランドが提供する、洗剤や飲料やシャンプーなどの製品となっています。
アマゾンプライム会員が対象ですので、送料はもちろん無料です。
Amazon Dash Buttonの使い方
使い方はGigazineのこちらの記事に詳しく載っていますが、
- あるブランドのダッシュボタン(500円)を購入する(初回は500円引きなので実質無料)
- アマゾンのアプリを立ち上げてログインし、ダッシュボタンと自分のアカウントを紐付ける(その際にWiFi環境が必要)
- ダッシュボタンでどの製品を注文の対象とするかを選択する
- ダッシュボタンを押す
- 製品が届く
という流れになります。
ここでは、アマゾンが特許取得している「ワンクリック購入」の技術が活かされています。この技術によって、アマゾンはユーザーの注文に対し、いちいち決済を求めなくてよいのです。
ユーザーにとってのメリット
特に日用品において、残りがどれくらいあるかということをいちいち意識するのは少し煩わしいですよね。
また、「日用品であればまあどのブランドでもいいか(今使ってるものをそのまま使い続けてもいいか)」と考える場合、残りが少なくなったタイミングでボタンを押すだけでその製品が届くというのはとても便利です。
ちなみにアマゾンに限らず、定期便サービスを打ち出している会社はありますが、定期便は自分に都合のよい、「残りわずかだから、そろそろ届いてほしい」というタイミングで届くとは限りません。
製品によって消費のペースが速かったり遅かったりするため、定期便がまだ来ない、またはもう定期便が来てしまった、ということが起きます。
ダッシュボタンによって自分に最適なタイミングで製品が届きます。しかも注文に関わること(ログインや支払いなど)を意識せずに、ボタンを押すだけで。
メーカーにとってのメリット
メーカーにとって最大のメリットは、ユーザーがダッシュボタンを使うことによって、
「他ブランドへのスイッチングコストが大きくなる=自社製品を使い続けてもらいやすくなる」
という点です。
スイッチングコストとは、ユーザーが現在利用している製品やサービスから、他の製品やサービスに乗り換えようとした際に負担しなければならないコストのことです。
金銭的なものはもちろん、新しい製品を学ぶのに必要な時間であったり労力であったり、そもそも他の製品やサービスを調べるということ自体もコストになります。
例えば携帯キャリアであったり保険であったり、「他のを調べるのが面倒だから、とりあえずこのままにしておこう」と思うサービス(ユーザーに思わせるサービス)はいろいろありますが、これもスイッチングコストが大きいということです。
また「初回限定○○」や、「解約手数料」といったものも、このスイッチングコストを大きくするためにあります。とにかく1度使ってもらい、使ってもらったら他に行きにくくしています。
例えばユーザーが洗剤を使っていって残りが少なくなった時に、ユーザーには
- 同じ製品を買い続けるか?
- 他の製品に買い換えるか?
という2つの選択肢があります。
洗剤や水など、低単価の商材の場合には特に、たまたま安売りしていた他の製品にユーザーが買い換えてしまうことが多々起こります。
しかしダッシュボタンをユーザーが持っていれば、残りが少なくなってきた時にユーザーがそのボタンを押して注文してくれるので、次回以降の購買を大きく期待できます。
これが、ダッシュボタンによってもたらされる、「他ブランドへのスイッチングコストが大きくなる」という効果です。
低単価商材では往々にしてロイヤリティマーケティングが難しいものですが、ダッシュボタンはこの現状を変える可能性を秘めています。
アマゾンにとってのメリット
アマゾンにとっては下記3つのメリットがあると考えられます。
- メーカーに対し「購買継続率を高めている」と示すことでさらに安い価格を求められる
- ユーザーを囲い込める
- ユーザーの詳細な消費・購買行動を把握できる
順番に見ていきます。
メーカーに対し「継続利用率を高めている」と示すことでさらに安い価格を求められる
アマゾンはメーカーと価格交渉をする際に、
「アマゾンでダッシュボタンを利用しているユーザーは、該当製品の継続利用率が高い。それを考慮した価格で製品を提供して欲しい」
というように要求することができます。
顧客の囲い込みが難しい低単価商材にあって、継続利用率が高いということは非常に重要な要素です。
こちらの日経新聞の記事によりますと
米ピーツ・コーヒー・アンド・ティーはアマゾンで販売するコーヒーのうち、今ではボタンによる注文が半分以上を占める。
ということで、実際に大きな継続利用の効果が出ているようです。
ユーザーを囲い込める
製品の残りが少なくなってきてそろそろ補充しようと思った時に、ユーザーにはリアルのお店で買う、アマゾン以外のネット通販で買う、といった選択肢があります。
アマゾンからすると全てのお買い物をアマゾンで行ってもらいたいわけで、このダッシュボタンがあれば、ユーザーは「アマゾンで買う」ということを別段意識せず、恒常的にアマゾンで購入してくれるようになります。
ユーザーの詳細な消費・購買行動を把握できる
個人的にはこれが一番大きいのではないかと思うのですが、アマゾンはユーザーがamazon.com上で取った行動、および購買を全て把握することはできています。
しかし、そこで購買した製品をどのように使っているのか、日用品で言えばどれくらいの頻度で使っているのかという情報を把握することはできません。
注文と注文の間隔から推測することができますが、その間にユーザーはアマゾン以外の場所でその製品を購入しているかも知れないためです。
シャンプーや洗剤や水などといった日用品の消費量がどれくらいかということが正確に分かれば(ダッシュボタンを押すことでユーザーがアマゾンに能動的に教えてくれます)、アマゾンはその他の情報とともに、そのユーザーの家族構成の推定や生活スタイルの推定の精度をより高めることができます。
その精度を高めることによって、より正確なレコメンドをユーザーに対して提供する=アマゾンでの購入を増やしてもらうことに繋がります。
最後に
ここまで見てきたように、アマゾンダッシュボタンはユーザー、メーカー、そしてアマゾン自身にとってメリットが大きいサービスです。
アメリカでの成功事例もありますし、日本でもこれから対象製品はどんどん増えていくはずです。
アマゾンはユーザー向けにどんどん新サービスを提供していますし、先日公開されたAmazon Robotics(アマゾン ロボティクス)を導入した川崎倉庫など物流面の整備も続けていて、既存の小売とますます競合していきます。
既存の小売やネット通販他社の動向も見ていこうと思います。
また、ダッシュボタンで注文した製品は他のアマゾン製品と同様にすぐ届くのですが、このサービスの利用によって小口配送が増える結果、既存の配送網により負担がかかる一方、ユーザーの期待値はますます高くなります。
即日配送・当日出荷を可能にしている配送の仕組みはこちらに記事を書いていまして、
ユーザーの期待値が高くなっていくことに関してはこちらに記事を書いています。
お時間がありましたら読んでみてください。
文中のスイッチングコストの説明画像はこちらの記事から、ダンボーはこちらからお借りしました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今後もいろいろなエントリを書いていきますので、ぜひ読者登録をお願いします。