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スノーデン「日本への警告」を読み、プライバシー権の大切さとメディアの役割を考える

アマゾンの集英社新書ランキング1位(2017年5月1日現在)となっている本書(Kindle版を合わせると、1位2位を独占しています)。

帯には「携帯はあなたの情報を政府に知らせています。」という文字。

「日本への警告」というタイトルどおり、他人事では無く、日本に住んでいる一人一人に影響がある問題なんですよ、ということを訴えています。

本書は、2016年6月に東京大学で行われたシンポジウムの採録で二部構成となっています。

前半は、ロシアからエドワード・スノーデン氏がテレビ会議で参加し、会場からの質問に答えていくスタイル。

スノーデン氏が自身の経歴を簡単に振り返った後、NSA(アメリカ国家安全保障局)の監視活動内容やそれを可能にしているテクノロジー、ジャーナリズムの役割やプライバシーの大切さ、民主主義や政府の役割などについて語っており、スノーデン氏の知性と深い洞察を感じさせる内容でした。

後半は、会場のパネリスト4名(および司会1名)によるセッション(スノーデン氏は参加せず)となっています。

スノーデンリークのインパクト、日本におけるムスリムへの監視、プライバシーに関する各国(主にアメリカとEU)の関与の違い、権力の監視におけるメディアの役割など、幅広いテーマを扱っていました。

こちらは各人が自身の知見をシェアするといった趣となっていてディスカッションと呼べるかは微妙なところで、また広範なテーマに対して少々時間が足りないように見受けられました。

印象に残った言葉を中心に、本書を振り返っていきます。

スノーデン「日本への警告」アマゾンランキング1位

出典:アマゾン(2017年5月1日時点)

民主主義とは政府の正当性の根源

スノーデン氏は

民主主義とは政府の正当性の根源である(P22)

と述べています。

(民主主義についてはP169にて、アリストテレスの「人々が政府について全てのことを知っていること、これが民主主義だ(また政府が多くのことを知っているが人々が政府のことを知らない、これは専制政治だ)」という言葉も紹介されています。)

そしてその民主主義を正しく機能させるためには、

  1. 政府が市民を対等の当事者として扱い、
  2. 政府の持つ情報をオープンにし、
  3. 常に政府が何をしようとしているのか、どのような権限を求めているのかを提示しなければならない。

としています。

説明責任無き権力は腐敗するという言葉通り、情報公開を要求して政府に説明責任を果たさせることによって(のみ)、権力を監視することができます。

説明責任に関しては、

自由で公平な社会を維持するためには、安全であるということだけでは足りません。権限を有する人たちが説明責任を果たさなければなりません。さもなければ社会の構造が二層化してしまいます。(P72)

というように再び言及しています(二層化とは、一般人が法を破れば処罰される一方、権力を持った官僚が言い逃れできてしまうような構造になってしまうことです)。

政府に説明責任を果たさせる役割の担い手として、スノーデン氏は一般市民にももちろんですが、ジャーナリズム・メディアに期待しています。

伝統的なメディアに対して懐疑的な見方が強くなりつつある現在ですが、それでも一個人ではなし得ないような調査報道をできる機関として、メディアの役割はこれからも変わらず重要です。

ちょうど調査報道に関して、下記の記事がありました。

NHKが調査報道プロセス異例の公開

しかしそのメディアが偏向していて(翼賛的である、またはその逆である)、しかもその立場を明確に表さないといった場合に、市民はどうすればよいのか(それが懐疑的な見方にも繋がっているわけですが)という問題がありますが、それはまた別の機会に考えてみたいと思います

1つ例を挙げると、組織犯罪処罰法改正案(共謀罪)に関して下記の記事がありました。

新聞の世論調査は中立な「報道」とはいえない

法案を支持する産経新聞や読売新聞の結果は「賛成」が多く、批判的な朝日新聞や毎日新聞の調査結果は賛否が拮抗するか、「反対」が多い。

世論調査を自社の主張の補強手段として好き勝手に使っている(実施している)という視点です。

より便利という理由だけで、政府に無制限の権力を与えるのは大変危険

P49にあるこの文章を読んで真っ先に思い浮かんだのが、4月16日に大統領権限を大きく強化する憲法改正の是非を問う国民投票が行われたトルコです。

改憲賛成派が51.4%となり承認に必要な過半数に達したため、2019年11月に実施される大統領選挙後、現在の議院内閣制から、大統領が国家元首と行政の長を兼ねる体制に移行することになります。

調べてみたところ、トルコは1923年の建国以来60回以上も政権が交代したということで、高い経済成長と安定を成し遂げたエルドアン大統領に支持が集まるのも無理が無いのかもしれません。

しかし近年は独裁色を強めており(そういえばトルコ国内からWikipediaへのアクセスが禁止されたというニュースも4月30日にありました)、「より便利=高い経済成長」をもたらしてくれるからといって、大きな権力を与えることの危険さを目の当たりにしているような気がします。

そしてこれは決して他人事では無く、日本でもしっかり考えていかなければならない問題だと思いました。

メタデータを用いて、「生活のパターン」を明らかにする

NSAがマス・サーベイランス(無差別・網羅的な監視)で取得していたのは、例えば電話でいえば、個々人の通信内容それ自体ではありません。

「メタデータ」と呼ばれる、誰が、いつ、誰に、どこで、どれくらいの時間通話したのか、という情報です。

政府による盗聴の疑いがある場合には、通話内容自体は暗号を混ぜたりごまかしたりすることはできますが、これらのメタデータは隠しようが無い真実であり、この情報を大量に蓄積していくことで、はるかな過去に遡ってその人物の行動及び交際関係を探ることができます。

「捜査に有用だとして政府が私たちの寝室すべてにビデオカメラを設置したらどう思いますか。自宅の上に監視用のドローンが常に飛んでいたらどう思いますか。誤解されがちですが電話のメタデータはこれらと同じくらいプライバシーを脅かすものです。」(P109)

プライバシーの権利について

スノーデン氏の言葉ですが、私はこの言葉が本書の中で一番印象に残っています。

隠すことがなければプライバシーの権利を気にする必要がないということは、話したいことがなければ言論の自由は必要ないというのと同じくらい危険なことです。弱い立場に陥る可能性を想像する必要があります。(P68)

ううん、本当にその通りですよね。

権利とは少数派を保護するものであり、自分がいつその少数派=すなわち弱い立場になるか分からないのです。

言論の自由に関しては、18世紀に活躍したフランスの哲学者ヴォルテールの言葉とされている

"I disapprove of what you say, but I will defend to the death your right to say it."
「私はあなたの意見には反対だが、あなたがそれを主張する権利は命を懸けても守る」

こちらが、中学だったか高校だったか、ともかくどこかの段階で受けた教育の中で強く印象に残っており、「言論の自由って大切なんだ」と思った記憶があります。

しかしプライバシーの権利については、権利自体が比較的近年(20世紀中ごろ)に提唱されたものだからか、教育の中で触れられた覚えがありません。

ただ私が覚えていないだけという可能性も大いにありますが、高度情報化社会であり、個人情報やプライバシーの扱いが非常に難しい現代に生きるにあたって、プライバシーの権利はどこかの教育過程で絶対に教えておくべきです。

プライバシーは、悪いことを隠すということではなく、自分が自分であるために必要な権利なのです。(P66、67)

検索エンジンやショッピングサイトやSNSといったサービス、携帯電話やスマートウォッチなどのウェアラブルデバイスなど、インターネットに繋がるサービスやモノを便利に使うために、ついつい気楽に個人情報を提供し、自分のプライバシーを公にしてしまっていますが、その影響はきちんと考えないといけないなと思います。

すべての情報を集めることは可能である

データを収集し保持するコストが極めて低くなっているということ、その情報を集めるための技術が非常に進化しているということが、私のようにウェブ業界にいる人間にとっては当たり前に思えますが、そうでないとなかなかリアリティをもって感じられないのではないかなと、後半の司会者である井桁氏のコメント

すべての情報を集めるというとSFのように聞こえます。(P107)

から思いました。

もちろん「すべて」というのは、特定の個人の朝から晩までの文字通り「すべて」の行動を把握することではなく、上述の例のような携帯電話や「インターネット上の行動・購買履歴」などになると思います。

しかし逆に言うと、「インターネット上の行動・購買履歴」というのは、事業者側が削除しない限り事業者側のデータベースに永遠に残り続けることになるため、いつでもその情報を過去に遡って取得することができることになります。

例えば楽天市場では自身の購買履歴を2003年から振り返ることができます。

2003年から振り返ることのできる楽天の購買履歴

ユーザーに対して表示しているのが2003年からであって、楽天市場のデータベースにはさらに以前の購買情報があるかもしれません。

同じことはその他のショッピングサイトにも言えますし、またフェイスブックやツイッターなどのSNSは、ユーザーが自己申告してくれる、いつ、どこで、誰と、何をした、というまさにプライバシーの塊の情報を、はるか過去から保有しています。

各事業者がそれぞれに保有している分にはまだよいですが、それらが統合されるとあっという間に個人が浮かび上がり、まさに「生活のパターン」が判明することになります。

各企業を信頼して預けている個人情報が、自分たちの知らないところで統合されて分析されることのないよう、注意を払わなければなりません。

最後に

数時間で読める内容ながら、特に前半部分のスノーデン氏のコメントや質疑応答はとても考えさせられるところがあり、何回か読み直しました。

折りしも4月24日に

米NSA、日本にメール監視システム提供か 米報道

こんなニュースもありましたが、普通に生きているとあまり意識しない「プライバシー権」の大切さにも、本書を読んで改めて気付きました。

一方そのプライバシー権は安全との間の選択の問題でもあり、安全と引き換えにどこまでのプライバシー権の侵害を政府に許し、どこからを許さないかは、市民社会が議論しなければならない点であるはずです。

市民社会という言葉で思い出したのですが、本書には

政府の行動を監視するには、メディア及び市民社会の連帯が必要(P64)

という言葉も出てきました。

スノーデン氏自身も、記者クラブ制度を例に出しつつこれは非常に難しいことだと言っていますが、市民がしっかりとメディアを見極める目を持つということも大切なことだと思います。

とても長くなってしまいましたが、最後までお読みくださりありがとうございました。

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スノーデン 日本への警告 (集英社新書) 新書

 

スノーデン「日本への警告」表紙

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